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5/8 カンヌ(フランス)
ニースからTGVで西へ30分、南仏随一のリゾート地カンヌへ到着。
もうすぐ映画祭が始まるため街はその準備に追われていた。そしてこれから始まるバカンスシーズンに向けてショッピング街の店々は競うように店先のディスプレイを美しく飾っている。
ラグジュアリークラスと呼ばれるクルーズがある。最高峰の船旅である。その頂点に君臨するのが米国シードリーム・ヨットクラブ、マイアミに本社を置く。同社のキャッチフレーズは、It’s
Yachting not Cruising.、数千人が乗船する大型船のクルーズとは全く異なることを強く主張する。
今回乗船する「シードリームT」は総トン数4300トン、クルーズ船としてはきわめて小さく、船客112名に対しクルー95名という贅沢な比率で最高のホスピタリティを提供する。
同社の船客の特徴はヨットのオーナーが多いことである。それはなぜか?
例えば読者諸氏が日本でヨットを所有していても、それを地中海に運んでセイリングとなれば大変なコストと時間を要するであろう。
それは北米の方にとっても同じ訳で、いわば自身が所有するヨット代わりに4300トンのメガヨット、シードリームTにみなさん乗船する訳である。そして乗ってしまえばそこにはファイブスターのサービスが用意されている。高級食材をふんだんに使った美食、アルコールを含むすべてのドリンクは無料、ウォータースキーやカヤックなどのマリンスポーツも楽しめ、どこまでも自由にそして最高の休日を洋上で過ごすことが出来る。
そしてクルーズ船にはつきもののフォーマルナイトもないのでスーツやワンピースなども不要、というかヨットにはそもそも似合わない。
カンヌの街に面したマリーナからテンダーボートに乗り込む。防波堤を越えると、きらめくコートダジュールの海にシードリームTが停泊していた。
船内に足を踏み入れると、ホテルマネージャーが笑顔で迎えてくれる。そして初対面なのにすべてのクルーが私をファーストネームで呼んでくれる。
どうやらマイアミ本社からすべての情報が伝わっているようだ。
レセプションで簡単な手続きを済ませ、ほどなくキャビンへ案内される。約18平米のキャビンはリビングエリアとベッドルームがあり十分な快適さを誇る。シャワーとトイレが完備。シャンプーや石鹸などはブルガリ製、クローゼットには上質なコットンのバスローブとスリッパ、そして驚きは私のファーストネームが刺繍されたパジャマ。なぜかサイズもぴったり。後に何人かのいろんな身長の船客にパジャマのことを尋ねたところ、全員ジャストサイズとのこと。クルーズの予約時に特段身長などは告げていない。なんとも不思議である。
ひと眠りした後、夕方にデッキ6のバーへ向かう。心地よい自然の風が入ってくるヨットらしいスペースになっている。毎夕ここにカクテルとオードブルが用意され、船客同士の語らいの場となる。
カナダからのご夫妻にこれまでの感想を伺うと「大型船の雑なサービスに飽きて思い切ってこの小さな船を選んでみたが、すばらしい食事と酒、惜しみないホスピタリティに大満足。これからの船旅はすべてこの会社でいいと思っている。」とのこと。
又とある若いご夫婦に話しかけてみたところ、ニューヨークはマンハッタン在住で、ハネムーンで乗船中あるとのこと。ソフィーマルソー似のとてもチャーミングな奥様とIT企業にお勤めのご主人、スマートライフ世代を絵に描いたようなお二人にこの船はとても似合っている。
暮れかかるころ、デッキ2のメインダイニングへ。入り口ではギターをポロンと奏でる男とメートルディー(ダイニングの責任者)が出迎えてくれる。
このダイニング、高級グランメゾンの格を醸し出す。かなり暗めの照明、各テーブルにはろうそくの灯りがゆらめく。実はこの船は、英国キュナード社が90年代に最高級小型船クルーズを始めるにあたり「シーゴッデス1」という船名で建造された。当時最高級の材質で贅沢に作られた究極のスモールシップなのだ。
今宵のディナーは、ビーフのタルタルに始まり、少しスパイシーなトマトスープ、オッソブッコ(子牛すね肉の煮込み)を注文、食べ進めてゆくなり「おいおい、これは大変なことになってきたぞ。」と自分自身が興奮してゆくのがわかる。
ワインも素晴らしい。木樽で熟成させたソーヴィニヨンブラン、豊かなピノノワールから生まれた赤、これらはクルーズ代金に含まれるのだが、船客の中にはさらに有料のビンテージワインを注文している方もかなり見かける。
外で映画をやっているという。プールデッキに大型スクリーンが設営され、かなり迫力ある音で見せてくれる。今日の演目はミッションインポッシブル、ゴーストプロトコル。月夜、カンヌの夜景に囲まれた洋上でエキサイティングな映画を見るとは、妙か感じである。
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5/9 カルヴィ・コルシカ島(フランス)
シードリームTは穏やかな夜の航海を経てフレンチウォーターを南へ、コルシカ島を目指す。ビュッフェレストランの一角、小さなテーブルとソファが海に面した面白い場所に配置されていて、そこで朝食をいただいた。
絞りたての果肉が入ったオレンジジュースがまず運ばれてくる。ウェイターへ今日のお薦めを尋ねると、「パワーアメリカンならミニッツステーキですよ。そして絶対にA1ソースと一緒に。」とのこと。俺はアメリカンではないのだが。。。。
この船の最上階デッキ6にはバリニーズベッドがある。ダブルベッドサイズのマットレスに寝転がり、風を受けてのんびり過ごすことが出来るヨットらしい場所。お望みなら夜星空の下で眠ることも出来る。遊び心満載の船である。
正午、コルシカ島のカルヴィに到着。港の上には城壁が広がりその土壁と青空のコントラストがとても美しい。
ほどなくシードリーム・ヨットクラブ名物のイベント「シャンペン&キャビアスプラッシュ」がプールサイドで行われた。シャンペン飲み放題、キャビア食べ放題という、実にゴージャスなイベントである。
マウンテンバイクを借りて散策に出かける。ヨットハーバーの先端にある小さな灯台まで行ってみる。老人が魚釣りに興じる。静かでのどかで、一瞬ここがどこなのかわからなくなる。ヨットスタイルには名所旧跡のある名だたる観光地よりもこんな小さな町、小さな港が似合う。
今宵も美食ディナーを堪能した後、自身洋上で初めてブラックジャックのテーブルについた。ディーラーの女性に簡単にルールを教わり勝負が始まった。相手の裏を読む、時に裏の裏を読む。その駆け引きが続く。隣の席に一人あらわれる。別の緊張感が生まれる。ビギナーズラックなのか、私のチップが倍に増えた。時に勝負と思えばチップの枚数を増やし、今は我慢のときと思えば少ないチップで負け試合を凌いで次のチャンスを待つ。
隣の男はまったくつきが来ないようで、私がちょっと調子がいいとディーラーの女性に「おいおい、あいつはお前の男か?」とからみ、私には「一杯酒をおごれよ。」とくだを巻く。そうやって彼もこの場を楽しく盛り上げてくれる。
ギャンブルで勝とうなんて気を起こさない方がいい。ちょっとお遊び程度で駆け引きを楽しむ程度でいい、と奇麗事を言いながらも、部屋に持って帰ったチップを換金するか明日もやるか、思案しながらベッドに入る。
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5/10 ボニファシオ・コルシカ島(フランス)
早朝、シードリームTはコルシカ島の南端に位置するボニファシオへ到着、その入港シーンは圧巻であった。
波によって強く削られた石灰岩に囲まれた細く狭い入り江に後進で入ってゆく。この先に留められるところがあるのだろうか。しばらくすると、かわいい小さな入り江に停泊する場所があった。こういった感動こそスモールシップで行く船旅の醍醐味である。
接岸後、しばらくして散策に出かける。まずは徒歩で入り江の奥へと歩き出す。イタリアのポルトフィーノにも少し似ている。今日はこの旅の中で一番陽射しが強い。朝仕事でパソコンに向かっていて朝食を逃してしまったためか、急にお腹が減りだした。そういう訳でランチに船へ戻る。今日のランチは、メインディッシュにブイヤベースとチキンカレーを注文、ほどよいショートポーションでこしらえてくれた。
午後は、スパでマッサージを受ける。タイの女性が5人も乗船していて、本格的なタイマッサージを受けることが出来る。私はアロママッサージをお願いしたのだが、やや強めの力で見事に体の疲れをほぐしてくれた。多分洋上でこれほどの本格的なマッサージを受けられる船は、他にはないだろう。この船こそスパに通っていただきたい。
後日談だが、マッサージをしてくれたアンさん(タイ人)含め、タイとフィリピンの女性スタッフの間では、カンヌから乗船してくる日本人(私)について、「きっとあの人は彼女に振られて傷心旅行よ。さもなくばゲイね。」とう噂していたとのこと。視察乗船はいつも一人なのでこういうことは慣れている。小型船は小さな村のようなものだから、噂がすぐに広まるのだ。
普段まったく運動をしないため、船に乗ってるときは極力歩くことにしている。今日はここボニファシオでオーバーナイトなのでゆっくりと過ごせる。そこで午後の散歩に出てみた。今度は石段を登って丘の上の古い町へ出向く。美味しそうなレストラン、どんなメニューかと見ると、ピッツァ・マルゲリータ。そう、ここはコルシカの南端で向かいの島はサルディニア島、イタリアである。
古い町の細い路地に光と影が交錯し、心地よい風が丘に吹く。土産物店に混じってソーセージや燻製類をつるした肉屋さんには、地元の人たちが買い物にやってくる。
当たり前だが、ここに生まれ、ここで暮らす人たちがいる。我々はクルーズ船でやってきた勝手気ままなよそ者だが、街の人は温かく迎えてくれた。
丘の上から、ボニファシオの入り江を眺めてみる。自然が生んだ壮大な造形美、気がつけば1時間ぐらいその景色を見ていた。
毎夕、トップオブザバーでカクテルやシャンペンとオードブルのサービス、そしてクラブディレクターによる明日の予定についての説明が行われる。
時折見かける高級船には見慣れない若いカップル、クルーと話していてその遡上がわかってきた。
ニューヨーク在住のハネムーナーはなんと31歳の旦那と28歳の新妻。もう一組の濃い顔立ちの二人、てっきりメキシコかどこかラテン系の国かと思いきや、オーストリアのご夫妻。
ホテルディレクターのピエールのポケットには、全船客の年齢入りのリストが入っていて、彼はをれを使って会話を作ってゆく。
ピエールはじめこの船のクルーは本当に楽しそうに働いている。仕事なのに、だ。そこが大型船とは全然違う。
近頃の大型船のクルー、疲れた顔の人をよく見かけるようになってきた。そして笑顔が消えていったような気がする。一人で20キャビン以上の清掃を担当していることもざらで、それでは心のゆとりなどあるはずはなく、ただただ目の前の仕事をロボットのごとくこなさなければならない。
今日は、デッキ5のトップサイドレストランでディナー。デッキのコーナーにある席にボニファシオの入り江に向かってこしかけた。
前菜のキャビア、ロブスターのサラダからはじまり、かぼちゃのスープ、牛フィレのフォアグラとトリュフソースがけと、このクルーズ随一の贅沢なディナーを暮れゆくボニファシオの空の下でいただいた。
何とも贅沢な気分、そんなことをクルーズ中にこの船のスタッフは幾度となく仕掛けてくる。彼らはサプライズが大好きだ。そしてこの船の船内ライフは、アメリカの富裕層のライフスタイルそのものなのだ。
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5/11 ゴルフォアランチ・サルジニア島
今まで見たこともないほどの青い海にまばゆいばかりの太陽、船が南に向かっていることを実感する。
サルジニア島までやってきた。ここは世界有数のリゾート地としても知られ、コスタズメラルダ、オルビアには超高級リゾートホテルも点在する。
シードリームTは午前10時、ゴルフォアランチという小さな港町の沖合いにアンカーを下ろした。
今日の朝食は、”The Art of Tea
Living”という、少し紅茶にこだわりを見せた朝食ビュッフェ。おすすめは、マフィンの上にスモークサーモンとアスパラガスを入れたスクランブルエッグを乗せたもので、初めて食べたがとても美味しい。
この船ではいろんな人と言葉を交わす。ダイニングのマネージャーはクロアチア出身、2005年頃、キュナードのQE2に乗船し、日本を訪れたことがある。
船客の一人、ロバートさんはオランダの実業家、よく話しかけてくれてとても船のことに詳しい。先代のロッテルダム(ホーランドアメリカライン)は、今引退してロッテルダムの港でフローティングホテルとして保存されているのだが。「あの船は我々の誇りだ。」と言っていた。たしかにキュナードのQE2、P&Oのキャンベラなどと同じ時代肩を並べたグレートシップだった。
船尾にマリーナが作られ、シードリーム・ヨットクラブのアクティブな一面であるマリンスポーツ大会となった。ジェットスキー、カヤックなど自由に乗ることが出来る。初心者でも親切に教えてくれる。強烈な波しぶきを上げて突っ走れば、さぞかし爽快であろう。
私は次回の楽しみに取っておいて、マリーナから海に入ってみた。強い日差しに騙された。
サルジニアの海はとても冷たく、まだ5月であることを思い出させた。海は南フランスに比べて格段に綺麗だ。
楽しい時間はどんどん過ぎてゆく。かといって予定をいっぱいつめても、後から何をしてきたのか思い出せなくなる。やりたかったけどやれなかったことがあるなら、またこの船に戻ってくればいい、ただそれだけのことだ。
食後、ポルトチェルボという町へのシャトルバスに乗ろうとしたが、以外にも本数が少なく、適当な時間のものはすでに出発していた。
聞けばポルトチェルボの町まで1時間ぐらいかかるという。あきらめて今日も自転車を借りてゴルフォアランチを1時間ほど走ってみた。
結果何もなかった。
数件のピッツェリアとバール、一軒のホテル、それだけだ。しかし、ちょっとした運動にはなった。
港近くのバールでエスプレッソを一杯いただく。1ユーロ。濃厚で見事な味。一杯のエスプレッソから、あぁイタリアに入ったんだなぁと実感する。
夕刻、久しぶりにトップサイドバーのブリーフィングに顔を出す。オランダ人のロバートさんとはずいぶん話すようになった。40人の船客、ほとんどが集まっているが、よく考えてみると、そのほとんど全員と言葉を交わしていた。ホテルマネージャーのピエールは、いかに船客をうまく交わらせるか、ミングルというのがスモールシップの大切なキーワードのようだ
クラブディレクターのエイドリアンさんの最後のブリーフィング、とてもしなやかな語りで
、「さよならはまだ言いません。どうぞ最後までおたのしみください。」との言葉が印象的。
最後のディナーは、エイドリアンさんとともにした。彼女はハンガリー人でリバークルーズにも精通している。明後日シードリーム・ヨットクラブ社のオーナーが乗船してくるとのこと。
ディナーのあと、この船とのわかれを惜しんでライブラリーへ繰り出す。カジノのレディーが「今日はやらないの?」と声をかけてくる。
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5/12 チビタベッキア(ローマ)
大きな都会の港には、大型船も数隻停泊。町の喧騒から活気を感じた。
下船の朝も、誰かにせかされることなどなく、10時の下船まで部屋は使わせてもらえ、ゆったりと朝食を摂って下船した。
90人のクルーが40人の船客に最大限の気遣いとあらんばかりのウィット、それにさービス精神で最高のおもてなしを提供してくれた。私の経験では、過去最高のサービスに値する。
シードリーム・ヨットクラブ、ベルリッツクルーズガイドブックの小型船部門第1位の称号は、真の評価であった。 |
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YACHT STYLE
シードリームTの船内 |
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ACTIVE
シードリーム・ヨットクラブのマリンスポーツ |
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CREW
最高のサービスを提供するシードリーム・ヨットクラブのクルー |
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GUEST
シードリームTに集うゲストたち |
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MINGLE
毎夕おこなわれるカクテルタイム |
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DINING SALON
高級グランメゾンの風格、上質なメインダイニング |
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NIGHT LIFE |
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AL FRESCO
バカンスシーズン、アルフレスコスタイルでいただく星空の下でのディナー |
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SEADREAM SPA
洋上最高の本格タイマッサージが受けられるスパ |
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LIBRARY and CASINO
こんな書斎が家にあればいいなぁ、と思ってしまうほど上質なライブラリ |
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キャビン(ヨットクラブステートルーム YC3)
落ち着いたリビングとベッドルーム、バスローブにスリッパ、ブルガリのアメニティ
冷えたウェルカムシャンペンでまずは一杯。 |
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