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今、世界には300隻ものクルーズ船が存在する。それらを評価する指標としてベルリッツ・クルーズガイドブックなどがあるが、米国の旅行雑誌「コンデナストトラベラー」の読者投票を私はかなり信用している。というのは米国はクルーズ人口が1000万人を超えるクルーズ先進国であり、同誌はかなり精度の高い分析をしているのだ。
クリスタルクルーズという会社。我が国の日本郵船がワールドマーケットを視野に約20年前、ロサンゼルスに設立した船社である。
日本の船旅は長きにわたり商船三井客船が担ってきた。私自身が幼少の頃、船好きの父の影響で家族で乗船した「にっぽん丸」は、ブラジルへの移民船を改装した初代にっぽん丸だった。(現在のにっぽん丸は3代目)
時が流れ、日本郵船が客船事業を再開。日本向けに飛鳥を、世界向けにクリスタルクルーズを、という訳だ。そしてクリスタルクルーズが世に送り出す船は、世界指標でも最高水準にあるものばかり。「やるからには、中途半端なことはしない。」そんな一流のプライドを感じた。
クリスタルセレニティ、現代のベストシップと言っても過言ではないだろう。2003年、フランスのアトランティック造船所で建造された。同時期、この造船所ではクイーンメリー2が造られ、古くはフランスが国の威信を欠けて建造した今はなきフレンチラインの「ノルマンディー」、「フランス」らを輩出した名門造船所である。
この度、自身初めてクリスタルセレニティに乗船する機会を得た。この船については散々雑誌などで記事、写真を目にしてきたので、乗ったことはなくとも、この船のことを、“わかっているつもり”になっていた。しかし、船は乗ってみなければわからない。しかも今回は、昨年巨費を投じた大掛かりな改装後ということもあって、鮮烈な印象を受けた。しかし、一度も乗ったことがないときに私がイメージしたいたことが間違っていなかったこともあった。それは、ロサンゼルスのビバリーヒルズをドライブした時に、ふと「クリスタルクルーズってこんな感じなんだろうなぁ。」と思ったことだ。つまり、アメリカ西海岸のノリ、とでも言おうか、明るくて華やかでゴージャスで。例えばこのほどの改装でお目見えした「テイスト」という開放感溢れるレストランは、ラグーナビーチのサファイアというレストランとコラボレートされている。形にとらわれない、前衛的で、ヘルシー嗜好のメニューが並ぶ。また、以前からある和食レストラン「シルクロード」は、NOBU
MATSUHISA氏が監修、寿司カウンターに座り日本人の板前と言葉を交わしていると、外国船の洋上であることはすっかりと忘れてしまう。雰囲気、味とも全く日本にいるのと違和感がないのだ。朝、メインダイニングに行けば完璧な和朝食が食べられる。そしてこの船には年中日本人のスタッフが乗船している。つまり我々日本人にとって最も安心して乗船できる外国船とも言えるのだ。
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私は毎晩、夕食前にクリスタルコーブというバーへ通った。時にカウンターの椅子に腰掛けたり、時にでっぷりとしたソファに深く座ったり。そしてウィスキーからカクテルまで数種を試した。ピアノの演奏が流れ、夕方にはカナッペのサービスもあり、実に落ち着けるバーであった。このバーのソファやカーペットのやさしい配色、どこかに記憶があった。それはビバリーヒルズのラッフルズ・ル・エルミタージュというホテルのバーだった。昔、新婚旅行で奮発してこのホテルに泊まり、これまたドライブする車も無理してジャガーXJを借り、ささやかながら華やかな門出のひとときを家人へと用意した。その頃の思い出と強く重なり、クリスタルコーブにいるとラッフルズのバーにいるかのような錯覚をおぼえた。
クルーズ船にはカジュアル、プレミアム、ラグジュアリーというランク付けがある。クリスタルセレニティは当然ラグジュアリークラスである。しかし、私の知るラグジュアリー船はもっと小さく、船客定員は数百名程度のものであった。クリスタルセレニティは約68000トンにして船客は1000人を超える。このサイズのラグジュアリー船がどうしてもイメージできなかった。その疑問は乗船してみて一気に解消した。船は大きくともクルーのサービスは丁寧で、キャビンも実に快適に造られていて、それでいて大型船の良さもうまくミックスされている。例えばエンターティメントショーが迫力があったり、上質なパブリックスペースが充実していたり。そして若々しさも備えているので、40代ぐらいの方でも楽しめると感じた。エンターティメントは往年の船はフランクシナトラ、現代のセレニティはエルトンジョンといった具合に。
クリスタルセレニティはオールインクルーシブというシステムを採用している。つまり外国船特有のチップも不要、お酒は特別なビンテージを除けばフリー。とてもスマートなシステムである。それでいて、昼夜の食事時に注がれるワインも私はじゅうぶん美味しくいただいた。
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クリスタルセレニティは先述のとおり、昨年末に大改装を行っている。ビュッフェレストランはほぼ一新され、時代に合わせて二人用のテーブルがたくさん用意され、明るく清潔感溢れるビュッフェラインはとても選びやすく、ビュッフェ特有の混雑は全く見られなかった。そのビュッフェに連なるテイストというレストランがあるエリアは開閉式の屋根の下、植物がたくさん植えられていて、オリーブの木やハーブも生息する清々しい空間。ランチ時、大きなシェードの下、ソファに座りステーキサンドウィッチにサラダ、シャンペンをいただけば、やっぱり西海岸のゴージャスな雰囲気が蘇ってくる。
クリスタルセレニティのデッキ7には、船をぐるりと一週するプロムナードデッキがある。よく手入れされたチーク材で敷き詰められたデッキが、この船に大きな開放感をもたらす。この造りは初代飛鳥(現アマデア)、飛鳥Uから踏襲され、訪れる各寄港地での入出港時、ここでその感動的なシーンを船客同士分かち合うことが出来る。最近の船は大きくなりすぎ、例を挙げれば、15万トン4000人乗りの巨大船ではデッキ16まで行かなければ海が見れない。つまり、海が遠くなってしまい、本来の海を感じ風を感じる船旅の醍醐味が薄れ、動くレジャーランド化しているのだ。だからこそ、セレニティのプロムナードデッキには大きな価値がある。
キャビンはスタンダードタイプでも25uを確保、バスタブ付、ダブルシンクには驚いた。バスローブとあわせて浴衣が備わっているのもうれしい。枕は数種類から選ぶことが出来、ベッドはどこまでも心地よい眠りへと誘ってくれる。
クリスタルクルーズの船に乗る。それはある種のブランドステータスを感じることでもある。それは何も奇をてらったものではなく、クルーのサービス、お食事、エンターティメントなど、まず基本がしっかりとしていて、何よりも船客に安心感をもたらしてくれるものである。一言で言えば我が家にいるよう感じられる船を良い船と言うのだろう。
クリスタルクルーズのパンフレットを見ると、意外と料金が安いことに気付いた。例えば夏のバカンスシーズン、バルセロナからカンヌ、フィレンツェ、ポルトフィーノ、モナコを巡る1週間で約2800ドルから。バリューフォーマネーの観点からすればかなりお徳感がある。
過去、大勢の人から賞賛されてきたクリスタルセレニティ。その実力は本物でやっぱり素晴らしい船だった。それはロサンゼルスに本社を置きながらも、日本の会社がきちっとオーガナイズしていることがその秘訣であると私は思っている。
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ビストロ(カフェ)
午後のひと時、カプチーノとクッキーや
サンドウィッチでまどろむ時間
みなさん話がとても弾んでいます
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ショッピングアーケード |
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ペントハウススイート |
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ナイトライフ |
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すがすがしい朝食、明るく清潔なリドレストラン
ゴージャスなアメリカ船らしく、モーニングステーキもあります。
朝からステーキ? これがけっこうイケますよ。 |
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エンターティメント |
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落ち着いた雰囲気のライブラリーには、日本の雑誌や書籍も充実
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シルクロード
洋上でこれほど本格的な和食が
いただける船は他にはありません
カウンターに座れば、昨日仕入れたばかりの新鮮なお魚でお刺身を作ってくださる
サッポロビールを飲んで、
日本人板さんと会話が弾んで
一瞬、外国船の洋上であることを
わすれてしまいます |
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プレゴ(イタリアンレストラン)
華やかな雰囲気、素晴らしいワイン、
そしてバリエーション豊富な
イタリアンメニュー |
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ヨガやフィットネスで一日をスタート、ラグジュアリー船の船客はウェルネス志向がとても強いです。 |
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横浜へのアプローチ、外国船で訪れるとちょっと不思議な気分
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時には少しカジュアルなランチ。爽やかな日差しが降り注ぐセレニティの中庭 |
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クリスタルセレニティの上質なナイトライフ
クリスタルコーブ(バー)でスコッチの水割りとカナッペをいただく
オールインクルーシブだからサインは不要
自然と隣に座る船客と話し始める
話しかけたくなる温かい雰囲気がこの船にはある
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