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3/2 メルボルン
ドイツ人はとても旅好きである。そして現役世代でさえ、年間4〜6週間の連続休暇を取る。
だからクルーズ人口はどんどん伸び、20年前日本もドイツも20万人程度だったのが、今やドイツは120万人を突破、日本は依然20万人のままである。休暇の事情もあろうが、その前に「人生は楽しむためにある。」との大前提が両国民ではちょっと異なるのではないだろうか?
アマデア、この船は1991年に三菱重工長崎で初代「飛鳥」として建造され、毎年世界一周を行い、多くの日本人から愛された名船だ。2006年に現在のドイツ・フェニックスライゼン社へ売却され、現在ドイツで最も人気の高いクルーズ船として活躍している。そしてこの船に乗るドイツ人船客はみな、この船が日本製であることを知っている。ヨットでもそうだろうが、建造の素晴らしさはもちろんのこと、船はそのあとのメンテナンスがとても大切。アマデアは船齢23年とは思えないほど美しくコンディションがいい。
アマデア、2014年の世界一周は135日間にもおよぶロングクルーズ。昨年12月にニースを出港、大西洋を渡り、パナマ運河を通り、アカプルコからタヒチ、ニューカレドニア、ニュージーランドを経て、
通算72日目、オーストラリアのメルボルンに到着、ここから乗船する。船客定員600名に対して、435名が乗船、うち84名が135日間世界一周中の船客である。その中には51歳という若さでリタイアをした方も含まれる。人生観の違いに唖然とする。そんな船客の乗船する世界一周、船内は独特な雰囲気が流れる。何かに焦ることはなく、何かにいがみ合うこともない。穏かな幸せなゆっくりとした時間が流れている。そこに身を置くだけで自身も何ともいえない幸せな気分になる。
3/3 ジーロング
早朝、アマデアはジーロング湾にアンカーを下ろす。
ここからのお目当ては、グレートオーシャンロードへの観光。約250キロ連なる絶景の海岸線。そこまでは片道3時間を要する。その壮大な景色に最大級の感動。道中、ゴルフ場にカンガルーが表れるのも微笑ましかった。
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3/4 終日クルージング
穏やかな海、キャプテン主催のウェルカムパーティー、ディナーが終わる夜9時ごろまで空は明るい。
ここは地球の南端、距離はあるがこの先は南極である。
一人のドイツ人との出会い。フランツさん。奥さんが定年退職を機に初の世界一周に乗船中。
過去20回以上フェニックスライゼン社の船に乗るリピーター、3隻ある所有船の中でとりわけアマデアをとても気に入っている。
大西洋を渡るとき、少し海が荒れたのだが、思いのほかアマデアは安定していて、さほど揺れなかったとのこと。彼は日本製のアマデアに大きな信頼を寄せている。
135日間船に乗るとは、どんな心得がいるのか?健康状態は心配にならないか?留守中の家は気にならないのか?などいろいろと聞いてみた。御歳60歳である。毎晩フルコースディナーとワインを楽しみ、その後は毎晩行われるメインシアターでオペラやミュージカルショーに興じる。お気に入りのオペラ歌手のために、ウェイターにナプキンで薔薇を作らせる。何しろ135日間乗船のVIP
、ウェイターがNO
3/5 ペネショウ(カンガルー島)
この島は東京都の2倍の広さに人口約3900人、自然破壊を抑えるため、幹線以外の道路は未舗装のままだ。オプショナルツアーで牧歌的な景色が続く丘をバスで進んで行く。
この島はユーカリから作られる油の輸出で栄えた。今もその精製工場が残っている。
3/6 アデレード
アデレードは、オーストラリアを旅した人にとても人気の高い街。街が美しく広々として緑も豊富。そしてレストランの数が多い。期せずして、アデレードの港にドイツ船が2隻並んだ。アマデアとオイローパ。
お互いワールドクルーズの最中である。
港からアデレードの街まで電車で40分。車窓からは、平屋建ての敷地の広い家が見える。
ダウンタウンに着いて寿司屋に入ってみた。日本食が勝手にアレンジされていてどんでもないことになっていた。エビフライ寿司、チキンの寿司などなど。それに寿司屋なのにコーラを頼む輩もいる。これは和食とは言えない。
午後6時出港。アマデアとオイローパは汽笛を鳴らしあう。ライバル会社ながら、遠い母国から離れた南オーストラリアで偶然にも出会い、お互いの安全な航海を願う。
出港時、船尾のプールサイドのバーに人が集う。さすがドイツ船、圧倒的にビール派が多い。ベックスの生ビールが2ユーロで飲める。これが格別に旨い。
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3/7 終日クルージング
アマデアはオーストラリアの南側を西に向かい航行、今日明日と2日間終日航海日が続く。
船旅の醍醐味は、ある意味終日航海日にあるような気がする。
ゆっくりと流れる時間、何の予定もないまっしろな一日。そこに自分なりのスケジュールを組み立ててゆく。ゴルフレッスンに参加したり、ダンス教室に入ったり。はたまた何もしない休日でもかまわない。
今日からブリッジ(操舵室)の見学が全船客に行われる。アマデアのような船客600名規模の外国船で行われることは極めて稀である。客室のデッキごとに日を分けて行われる。これもこの船会社のサービス精神の表れと言えよう。船客はちょっとした緊張感とわくわくした気持ちでブリッジに入り、キャプテンに質問してみたり、ブリッジという特等席からの眺めをしばし楽しむことが出来る。ブリッジに並ぶ計器類には日本のメーカーの名前が刻まれ、時計はSEIKO
。大きな海図を広げる机など、ちょっとしたモノ作りがとても丁寧で、日本製の生真面目さが垣間見れる。
今回、日本から乗船していただいてる皆さんと、デッキやプールサイド、エントランス付近など、お会いするごとに言葉を交わす。寄港地観光の相談に乗ったりすることもあれば、もっと深い家庭の事情を相談されることもある。ひとつの船の上に乗り合わせた船客それぞれにヒストリーがあって、今様々な思いを持ってこの洋上にいる。でもこの素晴らしいアマデアの南オーストラリアクルーズの洋上にたどり着けたという事実がある。出来る限り満喫していただきたい。私が日本語訳のメニューを毎日作成すると、それをみて、「今晩は何を食べようか?」と夫婦で相談している様が何とも微笑ましい。
3/8 終日クルージング
デッキ10にアマデアスパがある。ここのマッサージのための個室は海が見える。肩こりなどを治す指圧系もあれば、リラクゼーションのためのアロマオイルを使ったマッサージなどもある。スパにはサウナがあり、ここは男女兼用。しかもドイツ人は男女とも何も身に着けないで他人同士でも平気で一緒に入っている。
ディナー時、メインダイニングの入り口付近にシャンペングラスが並んでいる。今日はInternational Woman’s Day
ディナー中の出来事、前菜の次にメインディッシュが運ばれてきた。スープを頼んでいたのを忘れているのだ。すかさずメインディッシュを引き上げる。そこからどうするだろうと見ていた。ほどなく温かいスープが運ばれてくる。その後運ばれたメインディッシュは熱々の状態で持ってきてくれた。こういうちょっとしたことが船客に感動をもたらすのだ。私は人間味あふれる船が大好きだ。マクドナルドのハンバーガーのように、大量の人数を“捌く”がのごとく仕事をするシステマチックな大型船を好まない。「あなた方は誰のために仕事をしてるの?」と言いたくなる。お客様に心から楽しんでいただくのか、己が儲けたいのか、要はその選択だ。
3/9 アルバニー
2日間の終日航海を経てアマデアはオーストラリア南西の端の街、アルバニーに到着した。ここはかつて最南端の捕鯨基地として栄えた。それも1978年に途絶え、今は紙の原料となる木のチップや麦の輸出が主な産業となっている。寄港地観光のガイド、クレイグさんはジョークが大好き。クレイグさんの説明を私が日本語にしてお客様へ説明するため、ゆっくりと英語を喋って欲しいとお願いしたら、「ヌォオーー」と、つまりゆっくりと「いやだぜ。」と言ってきた。彼はこの小さな町に生まれ、ずっとここに住んでいる。「大きな街に行きたいと思わなかったのか?」と聞いてみたが、家族のこと、兄弟のこと、いろいろあってここに住み続けている。でも街は活気が無い。パースからの鉄道も廃線になってしまった。近い将来、仕事を求めて移住しなければならないかも、と言っていた。傍目にはオーストラリアの経済は資源産業が牽引し好調なように感じるが、すべてがそうとは限らない。大きな国土を持つオーストラリア、その国民すべての暮らしぶりはそんな簡単には語ることは出来ない。
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3/11 フリーマントル
午前7時、アマデアはフリーマントル港に接岸。いつもそうだがこのドイツ船は定刻に到着する。
今回の取材は、3月2日メルボルンから3月20日バリ島までの18泊。今日フリーマントルが9泊目でちょうど半分が過ぎた。ここはパースの外港で世界的ヨットレースであるアメリカズカップが、アメリカ以外で初めて開催された場所としても知られている。
3/13 終日クルージング
今日、日本人船客の方がが誕生日を迎えた。念のためダイニングの責任者に伝えておいたら、それが効き過ぎたのか、ハッピーバースデーをクルーが歌ってくれるときに、ホテルマネージャー、パーサーを含め、なんと30人以上のクルーが来て大騒ぎとなってしまった。国籍など関係なく、とにかく船客を心からもてなす気持ち、それは素晴らしいものだ。祝い事は少々派手でもいいんだなぁと感じた。
昔、どこのクルーズ船にもこういうおもてなしの心があった。現代のクルーズ船は大きくなりすぎて、船客とクルー、船客同士の距離感が遠くなり、こういうおもてなしはなくなりつつある。
3/14 エクスマウス
アマデアは本来、昨日シャークベイという街へ寄港の予定だったが、キャプテン曰く、アンカー留する箇所が予想より浅く、アマデアが安全に留められる場所から港まではテンダーボートで1時間もかかるため、シャークベイをキャンセル、今日のエクスマウス寄港となった。
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3/15 終日クルージング
世界一周クルーズは、終日航海日もたくさん含まれる。時には1週間以上続くこともある。 船側は船客を飽きさせないよう、限られた中で工夫を凝らし、様々なイベントを組み立てる。
たとえば今日は、スイートキャビンの見学会。通例、世界一周などは上級キャビンから売れてゆくのだが、少し空いている部屋があったのだ。
ジュニアスイートで約30平米。大きなベッド、ゆったりとしたソファ、プライベートベランダもあり、ロングクルーズこそ、広めの部屋を求める気持ちが少しわかる。世界一周となれば、世界中の訪れる寄港地でお土産物を買い、部屋に荷物も増えてゆく。何しろ平均100日以上の長旅ですから。
今宵のイベントはプールサイドでジャングルパーティー。ミュージカル、ライオンキングが喝采を受けていた。その次に登場したのがアフリカ人歌手のジョー・カーティス。彼の歌が素晴らしい。豊かな声量、抜群のリズム感。彼自身が醸し出す雰囲気も相まって、彼のショーはいつも大盛り上がりだ。最近は船に乗ると毎晩ショーを見るようになった。普段横浜にいるとき、好きなミュージシャンのコンサートや映画を観にゆくことがなかなかできない。でも生のショーや歌は心揺さぶられる。テレビやCD
とは全然違う。
3/16 ブルーム
朝目覚めると、エメラルドグリーンの海に囲まれていた。
ブルーム、オーストラリア北部の街。つまりメルボルンから14日かけて南西をぐりりと一週してきたのだ。そしてここがこのクルーズ中オーストラリア最後の寄港地となる。
船客は、らくだの背中に乗り海岸線を散歩するキャメルサファリツアーに出かける。
ここブルームには、アボリジニ文化との関わりが深い。アボリジニとは、狩猟採集生活を営んでいたオーストラリア大陸と周辺島の先住民。従来、食料を探し求めながら季節と共に移動する遊牧生活を送っていた。18世紀後半にヨーロッパ諸国がオーストラリアの植民地化を始め、そこに計り知れない価値のある文化と自然環境を発見し、それを彼らが破壊してゆく。大英帝国の支配下におかれたオーストラリアでは、先住民である彼らアボリジニへの迫害が始まり、多くの部族が疫病の罪で虐殺され、土地を追い出された。飲酒文化は元々無かったが、白人が持ち込んだ酒に興味を覚え、これに耽溺する人も出て社会問題となっている。
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3/17 終日クルージング
アマデアのドイツ人キャプテン、フーベルト・フロー氏の粋な計らいで、日本人船客だけのプライベートパーティーが最上階前方のビスタラウンジで催された。
キャプテン、ホテルマネージャーがラウンジの入り口で日本人船客ひとりひとりを丁寧にお迎え、 グラスにシャンペンが注がれ、華やかなひと時を過ごすことができた。
この船、アマデアについてキャプテンに尋ねてみた。アマデアは1991年、三菱重工長崎造船所にて郵船クルーズの初代飛鳥として建造され、20年以上経過している。キャプテン曰く、コンディションはとてもよく、低重心で安定感がある。特に船体の鋼板に反りがなく、訪れる世界中のパイロットやポート関係者から「この船は美しいですね。どこで造られたのですか?」と尋ねられるという。するとキャプテンは、「日本製です。」と誇らしげに答えるという。
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3/18 コモド島
朝9時、深い緑に覆われたコモド島に到着。島全体が世界遺産であり、人は住まず、手つかずの自然が残されている。船客のお目当てはコモドドラゴン、全長3m、体重100kg近くあり、厚い皮膚に覆われた姿は、まるで恐竜。イノシシやシカなど
の野生動物を狩る。そのツアーから戻ってきた日本人船客の方に「コモドドラゴンは見れましたか?」と尋ねたところ、「うん、見れたよ。コドモドラゴンもいたよ。」と教えてくれました。
今宵はキャプテン主催のフェアウェルパーティー。早いもので19日間の長旅もあと3日となった。 キャプテンはこの度の乗船に御礼を述べ、またの再会を誓う。
アマデアでは、毎晩10時半からレイトナイトスナック(夜食)がある。今晩のメニューはドイツ料理のカリーヴルスト。本場のフランクフルトソーセージにすこしピリッとするバーベキューソースをかけ、その上にカレーパウダーをふりかけたもの。日本で言うところのたこ焼きのようなファーストフードだが、
このシンプルなローカルフードにハマってしまった。事実、このメルボルンからバリ島への区間がキャビンに少し空きがあったため、アマデア擁するフェニックスライゼンの副社長から、「Masaakiの大好きなカリーヴルストを毎晩出すから、この区間の販売に力を貸してほしい。」と口説かれたのだ。
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3/19 バリ島
美しい夕景の中、アマデアはバリ島のベノア港へ入港、無数の小船がひしめくとても狭い港内、無事最終地へ接岸した。夜はバリ島音楽舞踊のローカルショーが披露され、エキゾティックな夜を堪能した。
世界一周の洋上にはとてもスローな時間が流れる。そして幸せな気分にさせてくれるどこかやさしい雰囲気が船内に溢れている。それは世界一周に乗る船客が醸し出している。
いつかは世界一周してみた。私にもその思いがある。そしてその思いはより一層強くなった。今回バリ島で下船したが、その先には何があるのか? 海路で何十日もかけてアジアからヨーロッパへ向かうのはどんな感じなのか? そんな好奇心を駆り立てる船、アマデアの船旅は「大航海」という言葉がふさわしい。
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