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4月から5月にかけて、フランス船「ロストラル」の洋上で仕事をしていた。日本周遊クルーズと言えども船内の公用語は英語とフランス語。そのコミュニケーションの不安を払しょくするため、日本からのお客様の対応にあたる。例えば一日の船内のスケジュールが書き記してあるデイリープログラムを毎日日本語に訳す。毎晩のフレンチディナーを日本語に訳す。そして日本のレストランのように、ご自身の食べたいものをメニューからじっくりと選んで食していただく。その前段として、1か月半対応にあたるぐらい日本からのお客様が多数ご乗船いただけたという事実。10万トン超、数千人乗りの大型大衆船ではなく、264人乗り、1万トン、美食のフランス船を選んでいただけたという事実。日本はクルーズ後進国と言われながらも、この国には20年前から船旅を楽しまれてる方もいるし、安さだけではない、質でモノをお選びになる方もいらっしゃる。みなさんはこの船で費やす心地いい時間に期待をしているのだ。
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今回ご紹介するのは大阪から函館へのクルーズ。一旦太平洋を東へ、横浜へ寄港。そしてまた西へ戻り、瀬戸内海を経て日本海を北上するというコースだ。5月の太平洋。今まで見たことがないぐらい美しく穏やか。ロストラルは滑るように東へと向かう。日差しも4月に比べるとだいぶん強くなり、プールで泳ぐ人もいる。プールサイドのテラスレストランでは冷えたロゼとフレンチのビュッフェランチ。もう気分はコートダジュールあたりを流しているような感じだ。主たる船客のフランス人は、あの心地いいサウンドのフランス語でおしゃべりに興じている。でも現実は大阪〜横浜、太平洋。このギャップがとても不思議。
フランス人キャプテン、ジャン・フィリップ・ラメールがこのクルーズの指揮を取る。ホスピタリティあふれるキャプテンで、夕方のウェルカムパーティーでは、船客一人一人をパーティー会場の入り口でお出迎え、その姿勢を下のクルーもしっかりと見ている。スピーチはいつも「ボンソワー、グッドィーブニン、コンバンワ」で始まる。
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3日目の早朝、ベイブリッジを通過、横浜港大桟橋へ接岸、同社初の首都圏への寄港だ。
横浜、ずいぶん都会の港へ来たなぁ、との印象。たくさんの人がロストラルの写真を撮っている。
こういう時、自身の乗っている船がちょっとカッコ良かったりすると気分が良いものだ。
今日は忙しい1日となる。クルーズの報道・メディア関係者はほとんどが東京のため、
そういった関係者へのお披露目が重要な仕事となる。またここ横浜から乗船するお客さまもいらっしゃる。
フランス人船客は、東京・箱根・鎌倉観光へと出かけてゆく。
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1か月半も船に乗ってると、乗組員は全員知り合いになる。3つあるバーのマネージャー、アシュレイはモーリシャス出身。部下のクルーに結構厳しい。「神経質な男だなぁ。」と思っていたが、実はすごく気のいい男。年配のご夫婦がメインラウンジにやってくれば、椅子を引いて座りやすいようにしてあげる。船客一人一人の好みをどんどん記憶してゆく。私の場合、座ると自動的にシャンペンを注いでくれる。このパーソナルなおもてなしが小型船のいちばんの売りである。とても心地いい。
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横浜からまた西へ、翌々日岡山の宇野へ寄港。入港へのアプローチ、地元のモーターヨットが気持ちよさそうに併走している。時にかなりロストラルに接近してくる。正にパーフェクトボート誌の世界だ。
宇野出港後、夜の12時頃だったか、深夜の操舵室を除いてみた。日本人パイロットが取り仕切っていた。真っ暗な中で計器類の明かりだけが灯る。そんな中常にウォッチし、オフィサーへ指示を出す。夜の瀬戸内海、傍若無人な中国貨物船とマナーの悪い漁船。その合間を上手くすり抜けてゆく。そして行く手には来島海峡、過去大事故が何度か起こっている海の難所だ。パイロットに聴いてみた。横潮が怖いのだという。複雑に海流が交錯している。この方は寝ずの番で明朝の広島までこれら難問をクリアしてゆく。船客がフレンチのフルコースディナーとワインを楽しみ、ふかふかのベッドでぐっすりと眠っている間、こんな大変な仕事をしている人がいることに驚いた。
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金沢では、日本からのお客さまと一緒に市街地へのバスに乗り、近江町市場でお寿司のランチを楽しんだ。船で出会った仲間、いつしか打ち解け、楽しい会話が生まれる。これも小型船ならではの喜びだ。10万トン超の大型船、数千人の船客が乗っていてもあまり言葉は交わさない。例えばお刺身を買うとき、魚屋さんなら「今日はこれが美味しいよ」とか会話が生まれるが巨大スーパーの鮮魚売り場ではすでにパックされたものを選ぶだけ、そこに会話は必要ない。それと同じだ。
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次の日、佐渡島の真野湾沖に錨泊。このクルーズ初のテンダーボート上陸だ。初と言っても船側は慣れている。地中海ではアマルフィの港へ、南極では氷の上へ、しょっちゅうテンダーボートで上陸している。
佐渡島へ降り立つ。大勢の人でたいへんな賑わい。子供たちが沢山集まっている。キャプテン、ジャン・フィリップ・ラメールも上陸し皆さんに丁寧にごあいさつと歓迎セレモニー。キャプテンはサプライズで地元の子供を大挙テンダーボートへ乗せ、ロストラル緊急見学会となった。きっと大きな思い出となったことだろう。
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フランス人にはバカンスという習慣がある。そのバカンスには定義があるという。それは「何もしてはいけない」ということだ。掃除洗濯なんて愚の骨頂。そんなのは誰かにやってもらえばいい。そして美味しい食事と酒に囲まれていなければならない。そのすべてをこの船は満たしてくれる。ロストラルはクルーズ船特有の文化、たとえばフォーマルな服装などをお仕着せることはない。動くリゾートホテルのようなものだ。だから船旅経験がなくてもバリやハワイなどのリゾートホテルで滞在型の休暇を過ごす人なら、すぐに乗りこなせるだろう。5月31日函館にて全船客が下船、ロストラル今シーズンの日本周遊クルーズが終了した。ほとんどの船客はまず空路東京へ、日本人船客はそれぞれの家路へ、フランス人船客はエールフランスでパリへと帰ってゆく。
来年も同じ時期、ロストラルより新しい姉妹船「ル・ソレアル」による日本周遊クルーズが決定、販売が好調ですでに残室が少なくなってきている。ソレアルとはフランス語のソレイユ(太陽)に由来する。バカンスには太陽が付きものだ。日本を巡る船旅であっても船内は思いっきりフランス。瀬戸内海でさえもコートダジュールに変えてしまう。ぜひこの不思議なエレガントな世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
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